概要
粘膜は、体の内側にありながら常に外界と接し、呼吸や飲食、性行為といった生命を維持する上で必要な活動を行う呼吸器、消化器、生殖器を覆っています。これらの粘膜組織では、私たちにとって有益な食餌性抗原や常在共生細菌のみならず、インフルエンザウイルスやHIV、病原性細菌といった病原微生物などの多くの非自己成分(外来異物)と常に対峙しています。病原微生物の多くは粘膜組織を介して侵入、感染するため、私たちは粘膜面に粘膜免疫システムと呼ばれる精密かつダイナミックな免疫システムを構築することで感染防御を行っています(正の応答)。一方で、粘膜免疫システムは常在細菌や食餌性抗原など、私たちにとって有益な異物に対しては過剰な免疫応答を示さないようにする抑制性免疫応答(負の応答)を同時に示します。現在、これら粘膜免疫システムが有する正の免疫応答を応用した”食べる?吸う”ワクチンである粘膜ワクチンの開発が注目されています。
M細胞の細胞生物学的特長と抗原取り込み作用機序の包括的理解
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私たちは粘膜免疫システムの中でも、外来異物と初めて出会う場所である上皮細胞(層)、特に抗原取り込みに特化した細胞である「M細胞」に着目し、M細胞の機能発現機序の解明を通して各種感染症に対する粘膜ワクチンや粘膜アジュバントの発見、開発を目指しています。加えて、ワクチンが効きにくいとされている高齢者の粘膜免疫システムを理解することで、高齢者をターゲットとした粘膜ワクチン開発に繋げていきたいと考えています。
腸管上皮細胞層と人工パイエル板の構築
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近年、腸管上皮細胞の3次元初代培養が可能となり、”正常な”腸管上皮細胞をin vitroで利用できるようになってきました。この3次元培養腸管上皮細胞を粘膜アジュバントのスクリーニングなどに応用すると共に、トランスェルで極性を持たせた状態で上皮細胞層を構築し、病原微生物の侵入メカニズムや増殖メカニズムの解析、粘膜アジュバントのスクリーニングなどに応用したいと考えています。