研究概要
Ⅰ.尿路生殖器悪性腫瘍
臨床研究
ロボット支援手術に関して
手術用ロボットであるダヴィンチを導入し、ロボット支援前立腺全摘除術を年間100例程度施行している。排尿機能および性機能の温存に関しより精度の高い手術術式の確立を目指している。さらに手術に対する客観的な評価を行うためQOL調査(SF8、IIEF、EPIC)を前向き研究として収集しており排尿機能、性機能、QOLに関するデータベースを常時更新している。また術後のヘルニア発症に関与する因子についても調査中である。2020年には国産の医療用ロボットであるhinotoriに関する臨床研究も開始している。
腎癌においてもロボット支援腎部分切除術を年間40例程度施行している。最近では腎門部腫瘍や埋没型腫瘍など難易度の高いとされる腎腫瘍に関しても積極的に取り組んでおり全国での共同研究にも参画している。
筋層浸潤性膀胱癌に対しては、ロボット支援膀胱全摘除術を年間15例程度施行している。2019年からは尿路変向術に関してもすべて体腔内で実施する術式(ICUD)を採用しておりより侵襲の低い治療を目指している。
放射線治療に関して
前立腺癌に対する外照射併用高線量率組織内照射を年間40例前後施行しており全国でも有数の症例数である。手術単独では制御困難な局所浸潤性前立腺癌に対しては内分泌療法を併用した高線量率組織内照射を実施することで良好な治療成績を得ている。またこの際の内分泌療法の至適期間を決めるための第3相臨床試験を進行中である。放射線治療に関しても手術と同様にQOL調査を前向きに収集しており排尿機能、性機能、QOLに関するデータベースを常時更新している。
薬物治療に関して
前立腺癌では新規ホルモン療法、腎癌では分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の進歩が著しく、エビデンスのある最新の治療を積極的に取り入れるようにしている。
基礎研究
基礎的研究に関しては腫瘍免疫に関する研究を主に行っている。近年特に注目を集めている癌幹細胞に特異的に発現する分子であるDNAJB8に着目し、本分子を産生するプラスミドワクチンを投与することのよりマウスでの腎癌細胞株の生着を有意に抑制することを見いだした。さらに本分子をもとにA24に特異的にバインドするペプチドワクチンをデザインし、本ペプチドワクチンを作用させることにより末梢血単核球からCTLを誘導することに成功した。腎癌に対し根治的腎摘除術を施行した患者においてDNAJB8高発現している患者の再発率が有意に高いことをPCR法でもって見出した。
近年では腫瘍微小環境の研究も行っている。腎癌での腫瘍内浸潤マクロファージと予後との関連について免疫組織学的、RT-PCR法を用いて調査中である。また2020年からは分子遺伝子学講座の井上 徳光教授との共同研究で腎癌微小環境における乳酸の役割に関しても研究を開始している。
Ⅱ.尿路結石症
尿路結石は内視鏡手術や体外衝撃波結石破砕術(ESWL)の発展により低侵襲に除去することが可能になっていますが、その再発率は約50%と極めて高く、未だ満足すべき予防法が確立されていないのが大きな課題となっています。教室では、尿路結石症の成因探求とそれに基づく再発予防法の開発も目的として、古くから基礎的、臨床的研究に取り組んできました。基礎的研究は、尿中結晶形成過程やそれを抑制するための米糠(rice-bran)療法やクエン酸療法の研究に始まり、培養尿細管細胞を用いた腎内における結晶沈着過程およびそれに影響する尿中高分子物質の探索へと発展してきました。最近は、マウスを用いた基礎研究や、メタボリックシンドロームと尿路結石症の関連性を中心に研究を行っていますが、再発予防に限らず、手術療法や臨床で遭遇した様々な課題を解決すべく幅広く臨床研究にも取り組んでいます。最近の研究成果および現在取り組んでいる研究課題を以下に紹介します。
1:尿路結石形成機序の解明?予防法の確立を目指した基礎研究
実は、尿路結石形成の詳細な機序は未だ明らかになっていません。当教室では、尿路結石機序の解明?予防法の確立を目指し、結石モデルマウスを用いた基礎研究を行っています。最近では、オンコスタチンMという新たな因子に着目した研究を行い、オンコスタチンMが腎において尿路結石形成を促進する新規因子であることを明らかにしました。現在、有効な尿路結石形成予防薬の開発を目指し、基礎研究を継続しています。
2:尿路結石症とメタボリックシンドロームの関連性についての研究
尿路結石全国疫学調査のデータを解析し、尿路結石症の重症度や尿化学異常がメタボリックシンドローム因子の保有数と相関することを明らかにしました。また、腹部CT画像において内臓脂肪が多い患者さんや脂肪肝がある患者さんの方が、尿路結石が多発しやすく、再発率も高い可能性があることを明らかにしました。動物実験でもメタボリックシンドロームの本態であるインスリン抵抗性が結石形成に関わっていることを確認し、インスリン抵抗性を改善することが尿路結石の予防にも有用であることも明らかになりつつあります。
3:適切な術式選択を目指した臨床研究
近年の内視鏡技術の進歩は目覚ましいですが、その低侵襲性から、未だESWLも有効な治療選択肢の1つです。重要なのは、結石のサイズや位置に加え、患者背景や結石の特徴、尿路の形態などを考慮した上で、個々の患者さんに対し最も適した治療を選択することだと考えています。適切な術式選択を目指し、主に腹部CT画像から得られる結石の硬さや不均一性、周囲の尿管の変化、尿路の形態などの情報を元に、術式別の治療成績を術前に予測するための臨床研究を幅広く行っています。最近では、他大学の工学部と連携して、人工知能を用いたESWL治療効果予測ソフトの開発にも取り組んでいます。また、治療成績に加え、各治療が患者さんのQOLに与える影響を検討するためのアンケート調査も行っています。
4:手術療法についての研究
サンゴ状結石などの難治性腎結石に対する経皮的および経尿道的アプローチを同時併用した術式(TUL併用PNL)を本邦ではじめて導入し、その治療成績について検討しています。最近では、人工結石や仮想腎臓モデルを用いて、レーザーや内視鏡などをいかに有効に使用すべきかを検討するための工学的な研究にも着手しています。
5:その他
結石形成の原基とされるRandall’s plaqueの存在をCT画像で評価することによって再発リスクを予測する試み、寝たきりの患者さんにおける尿路結石の罹患率や適切な治療法についての研究、再発予防についての患者意識調査など、幅広いテーマで研究を行っています。